智頭町の自然栽培グループを訪ねて
6月某日。初夏の空気が気持ちよく感じられるある日、鳥取県・智頭町で自然栽培を行う団体「NPO法人自然栽培そらみずち」の方々を尋ねました。
私たちを最初に迎えてくれたのは、そらみずち代表の古谷 祥一郎(ふるたに しょういちろう)さん。元々智頭町の生まれで、20年間の東京生活を経て、生まれ育ったこの地にUターンして来られたそう。そらみずちの発起人です。
そらみずちとは、 智頭町を拠点に、「自然栽培」という肥料や農薬を使わず作物の力によって育てていく栽培方法を実践し、そうして育てた野菜などの販売も行っているNPO法人団体。会員数は二十数名、うち農業従事者は4~5名とのこと。
お会いして早速、古谷さんは、そらみずちに所属する農家さんの畑まで連れて行ってくださいました。
生産者になって届けたい
まず初めにお伺いしたのは、そらみずちのメンバーで、「しまだ農園」を営む嶌田 浩(しまだ ひろし)さんの畑です。
嶌田さんは愛媛県のご出身。智頭町に移住して来られる以前から、奥様やお子様がアレルギー体質だったこともあり農薬・肥料が入っていない野菜を購入されていたそうですが、「今度は自分たちが生産者になって届けたい」という想いを持ち、自然栽培に出会い智頭町へIターン。
訪問させていただいた農園には、自然栽培ですくすくと育ったたくさんの野菜たちがずらーっと立ち並んでいました。
「普段使いできるものばかりなんだけど、ナス、ピーマン、甘長、オクラ、パプリカ…」と本当に多品種のお野菜を栽培されていて、それぞれの野菜の面白いところ、栽培の工夫などを聞かせてくださいました。
作物の生きる力を活かす
まずは玉ねぎ。「しまだ農園始まって以来の良いでき!無肥料でもここまでできるんだよ」と教えてくださったのがとても印象的でした。
▲ 葉が倒れているのは自然な現象で、それからは葉ではなく根の部分に十分な栄養が行きわたるようになるのだそうです。
野菜は土に養分がないと育たないため、下に落とした玉ねぎの葉の部分が自然と土に返り、次第に無くなるようにして生長するための養分となっていくそうです。玉ねぎは、そうしてできた自分にとって必要な養分をしっかりと吸い上げているのですね。
嶌田さんは、野菜の持つこうした働きを踏まえ、次のシーズンにはお野菜の栽培場所を「席替え」のように入れ替えることでそれぞれが生長しやすい環境を作り、栽培をされておられるそうです。
次にご紹介くださったのは、パツパツに膨らみしっかりと育ったスナップエンドウ。
スナップエンドウのツタの先は、バネのようくるくると螺旋状になっていて、風が横から吹いてきたときに自力で支えに引っかかるようになっているそう。また、その巻きの方向が途中から反対向きになっていることで、簡単に外れてしまわず、しっかりと引っかかっていられるのだと言います。実際に近くに寄って見てみると、確かにツタの先がしっかりと嶌田さんが準備された支えに捕まっているようでした。
「まだ若くて種があまりないけど、めっちゃ甘くてうまいよ」とのことで、その場で試食もさせていただきました。パリッとかじってみると、とっても瑞々しく自然な甘みがあり、中身がしっかりと詰まっていてとっても美味しかったです。
嶌田さんが育てるお野菜から、作物自体が持っている生きる力を実感しました。
「植えるのは楽しいけど、収穫や手間もかかって大変。同じ苗を植えても、子育てと同じように親(人)が来て声をかけてあげたり、見てあげる、お世話してあげると大きさが全然違うよ」と嶌田さん。
そう話しながら紹介してくださったのが、ナスやトマト。
ナスは、支柱を立てて支えてあげることで、風に吹かれて動いてしまうことを防ぎ、根を安定させることで生長を促します。
トマトは、もともと雨の少ない地域で生まれて地を這うように育つ植物のため、支柱を立ててあげることで疑似的に育ちやすい環境を作ってあげるのだそうです。トマトを育てるときに支柱を立てるのは知っていましたが、そんな理由があったのか、と納得しました。
脇芽を取ってあげたり、早めに大きく育った実を間引いてあげることも欠かせません。
こうしてすくすくと、空に向かって真っ直ぐに育っているナスやトマトを見て、嶌田さんが毎日我が子の様に愛情をもって育てておられることが目に見えて分かりました。
採ってかじって食べられるものを
肥料や農薬を使わず、作物の力と嶌田さんが毎日のように声をかけ、手をかけた野菜たちを食べることで、奥様やお子様のアレルギーの症状も軽減されたのだそう。
「アレルギーとは身体の悪いものを出すという反応なので、正常なこと。こうした肥料や農薬を使わない野菜を、自分たちが生産者になって届けたいという“芯”がブレないように。採ってかじって食べられるものを作っていきたい。」
そうおっしゃる嶌田さんは、「自然栽培をやってみたい」という方々を農園に迎え、体験菜園の場も提供しておられました。希望者は、嶌田さんの農園の一角を委託される形で自然栽培を体験することができるのです。栽培の方法を指導するのはもちろんのこと、嶌田さんのブレない”芯”となっている想いや経験などを伝えられているそう。
「いつもそんな話をしています。栽培方法の指導はいろんな本に書いてあるので、それ以外の話をすることでまた新しいことをその人が持って帰ってくれたら良いな。自然栽培が広まって、普通の値段でどこでも買えるようになれば。」
農園の野菜たちを我が子のように、「栽培」というよりも「そっと手を差し伸べてあげる」ような姿勢で育てておられる嶌田さん。嶌田さんのご家族を想う優しさと、安心して食べられる野菜を届けたいという情熱が、ぎゅっと中身が詰まった美味しい野菜が育つ一番の理由なのだろうと感じました。
<昔ながらの栽培と暮らす|空と水と大地の恵み② へつづく>
#鳥取 #育てる人
自然栽培をされている農家さんの畑に初めてお邪魔しました。見渡す限りに連なる野菜たち。自然の力と、嶌田さんの支えがあり、ぐんぐんと育つ野菜の姿から大きなパワーをもらいました。