<前回の記事はこちら→中身の詰まったやさしいお野菜|空と水と大地の恵み①>
このまちに人々が集まる理由
6月某日。初夏の空気が気持ちよく感じられるある日、鳥取県・智頭町で自然栽培を行う団体「NPO法人自然栽培そらみずち」の方々を尋ねました。
私たちを案内してくださったのは、そらみずち代表の古谷 祥一郎(ふるたに しょういちろう)さん。最初にご紹介くださったそらみずちのメンバーのお一人、嶌田さんの畑を後にして、次の目的地に向かいます。
次にご紹介くださるメンバーの方も、前回記事でご紹介した愛媛県ご出身の嶌田さんと同じく、県外から移住して来られた方とのこと。
「私たちの活動や自然栽培に興味を持ってやってくるのは、Iターンの方が多いです。食の安全を考えたり、アレルギーを治したいといったベースがあるからね。」と古谷さん。
自然に囲まれた穏やかな環境があって、更にはそらみずちのように自然栽培にこだわり農業をする人々がいること、また人も作物ものびのびと育てる環境があることが、このまちに人々が集まる理由なのかなとふと感じました。
古谷さんから、そらみずちの活動をはじめ、日々の暮らしのことや、ご近所にできたケーキ屋さんのお話など(この内容は次回の記事でご紹介します!)をお伺いしていると、田畑に囲まれた山間部に到着しました。
次にお話を聞かせていただいたのは、そらみずちのメンバーで「はるようび農園」を営む前田 賢太郎(まえだ けんたろう)さん。
たまたま読んでいた漫画に智頭町が登場したことをきっかけにこの町を知り、森に囲まれての生活や、のびのびと子育てができる環境を求めて8年前に移住して来られたそう。ご自宅である古民家の周りを見渡すと、いたるところに前田さんが畑として使われている土地がありました。
周辺で10カ所ほどはあるという前田さんの畑。畑となっている場所は、高齢化などで農業をやめてしまった地元の人々からお借りしている土地なのだそう。ある程度大きな土地で持ち主の管理が行き届かなくなり、荒れてきてしまったところを畑にすることで、代わりに管理をするような形で野菜を育てておられるのです。
より「自然」な栽培を追求する
前田さんは、野菜や小麦など様々な作物を育てながら、より良い栽培方法を探し、変化させておられるのだそう。
そのひとつの例として、なた豆茶の栽培について教えてくださいました。昨年まで黒いビニールのマルチ(畑の畝を覆って野菜の生長をサポートするもの)を使用していたのだそうですが、現在はビニールのマルチの代わりに「杉の皮」を使用されているのだとか。
この杉の皮は、近所の製材所で出る端材で、言わば使い道のないもの。畝の上に杉の皮を敷き詰めてからなた豆を植えることによって、雑草がずいぶんと抑えられているのだと言います。
「ゴミを減らせる、自然栽培らしいやり方を考えようかなと。」
そうおっしゃる前田さんは、この他にも、 茅(かや)などの硬めの有機物を埋めてから畝を立てることで土の水はけや空気の通りを良くしたり、栽培した蕎麦の残りを土に埋めて冬の間に土に栄養分を蓄える「菌ちゃん農法」を試してみたり。そうして日々より良い方法を模索し、挑んでおられました。
自然に寄り添った栽培と暮らし
また前田さんは、何種類かの作物の種を取り続けて、翌年以降の栽培に使われているそうです。その中でも、クッキングトマト「なつのこま」はずっと種を取り続けていて、肥料がなくとも一番よく成長を実感できているのだと言います。
前田さんがこうして種を取る理由の一つとして、作り手がいなくなってしまうことや新種の流通により、古い品種の種がだんだんと手に入れづらくなっている現状もあるそうです。
こうした課題に向き合いながら、手間を惜しまず美味しいと思えるものを栽培されている様子に、また「今度は自分が残さないといけないことになってきますね」という言葉に、前田さんの強い信念を感じました。
▲お話を伺った場所は「スペルト小麦」を栽培されている畑の傍。グルテンが少なく、小麦アレルギーの方でも食べられることがある品種とのこと。どの作物にもブレないこだわりがあるように感じました。
こうして、見渡す限り山に囲まれた前田さんの畑にて、鳥のさえずりや木々がさらさらと風に揺られる音を聞きながら、まだまだたくさんの栽培の工夫や、お野菜の知識を伺うことができました。
前田さんのお話を聞かせていただくことで、自然に寄り添った栽培や暮らしの魅力、また、そうして育った作物の本当の美味しさとやさしさを改めて感じられた時間になりました。
<つながりが作る、豊かな暮らし|空と水と大地の恵み③ へつづく>
#鳥取 #育てる人
「ひとりでやるのが気楽でいいかな(笑)」とお話しくださった前田さん。大自然に囲まれ、日々工夫を凝らしながら黙々と栽培ができることを、とっても楽しんでおられるようでした。