前回の記事はこちら→〈始まりはキッチンで|記憶の中で見つけたものづくりの道①〉
鳥取県中部、湯梨浜町の穏やかな農村の一角。そこには東京からのUターンを経て、木と向き合い、真摯にものづくりに励まれる職人さんがいらっしゃいます。今回は『ドモク堂』朝倉康登(あさくら やすのり)さんが大切にされている暮らし、そして作品にかける思いについてご紹介いたします。
■田舎だからこそできること
震災がきっかけで地元に帰ってこられた朝倉さんでしたが、それと同時に朝倉さんにとって田舎は「やりたいことができる場所」でもありました。木工だけでない、これまでの経験を活かして地元での暮らしをとにかく楽しまれているようです。
朝倉さんはなんでもご自身で作ることが好きだとおっしゃいます。取材の際にご自宅にお邪魔させていただくと、なんとそこには自作のピザ窯が置かれていました。どうしてピザ窯をご自宅に作ろうと思ったのかを伺うと
「木を使ってものづくりをすると、すごく端材がでます。それを今まではゴミとして処分していたんですが、それが結構もったいなくて、ピザ窯だな…と思ったんです。ピザ作りも結構上手になりました(笑)。肉とか魚とかも焼けるんですよ」
と教えてくださりました。
ご自身で作られているのはこれだけでなく、お庭の立派なウッドデッキやビニールハウスもご自身で建てられたもの。さらには近所の田んぼや畑で農業にも取り組まれているのだと言うのだから驚きです。
▲自作のピザ窯。趣味で釣った魚を焼くこともあるそうです。
▲ウッドデッキにはブランコがついていて、お子様の遊び場にもなっているのだとか。
朝倉さん曰く、自分のやりたいことが田舎にマッチしていて、ハウス屋さんをしたり色々なことに挑戦されてきたことがいい経験になっているそうです。
■暮らしに寄り添う道具を作りたい
日常の暮らしを楽しみ、大切にする朝倉さんですが、それはものづくりにおいても同じこと。
食器やカトラリーづくりの根源には、「大事なご飯の時間を楽しく過ごせる道具を使ってほしい」という思いがあるとおっしゃいます。
▲試作された変形リムのオーバルプレート。ティータイムもより楽しくなりそうです。(画像:ドモク堂のInstagramより)
「デザイン性はもちろんだけど、使ってなんぼなので、何回も試行錯誤してちゃんと使えるものになるように心がけています。ザラザラしているとタオルで拭きにくいし、そういう細かいところまで気をつけて作ってます」
暮らしの中で当たり前に使えるものを作るため、朝倉さんが特にこだわっているのは実用性の高さ。試作したものはご自身でまず使って耐久性や使いやすさを確認し、時には奥様の意見を参考にすることも。朝倉さんの作品は見た目の美しさだけでなく、使う人に寄り添い、楽しく日常を彩ってくれる、そんな存在になってくれる予感がしました。
また、作品に使っている木材の多くは地元産の桜の木。硬さはありますが、色が良くて掘りやすい木なのだそう。
時には林業をされているお知り合いの方からいただくこともあるそうで、材料ひとつをとっても、朝倉さんが地元を大切に思われている様子が伺えました。
▲木から形を切り出して、削り、サンドペーパーで表面をなだらかにして、漆を塗って仕上げる。同時に複数個作りながらだと、完成には数ヶ月を要することも。
■好きな場所で、好きなものに囲まれて
朝倉さんが普段作業を行っているのは、ご自宅の近くにある工房。田んぼに囲まれた、鳥のさえずりが聞こえてくるような静かな場所にあります。
工房の中に入らせていただくと、そこには作品の形を切り出した木材や制作に使う機械が、壁際にところ狭しと置かれていました。朝倉さんはここで一日中ものづくりに没頭されるそうです。思わず冬場は寒くないのかお尋ねしたところ、
「雪が降った日は特に静かで最高です(笑)。断熱材を入れてあるので、ストーブを焚けば意外と寒くないんですよ。音楽が好きなので、作業は音楽をかけながらすることも多いです」
と、朝倉さんはおっしゃいます。
工房の中を見渡すと、使い込まれた機材と共に置かれている、音楽を聴くためのラジカセや子供の頃から好きだったと言うスケートボードにも目が止まりました。自分の生き方にあった場所で、好きなことをしながらものづくりで生きる朝倉さんの「ライフスタイル」。それがこの工房にはギュッと詰まっているかのようでした。
▲朝倉さんの作業場の一角。
最後に今後挑戦してみたいことをお聞きすると、
「使えるものじゃないもの。オブジェを作ってみたいです。そこにあったら心が和むものもや、見ていて創作意欲の湧くもの・・・そういうものを作りたいと思っています」と朝倉さん。
「日常の道具」とはまた違ったジャンルの作品ではありますが、朝倉さんの作りたいと考えているオブジェは見る人の感性に日々良い影響を与えてくれるような存在。ものづくりの根源である「暮らしを楽しむ」という思いは変わらず、その魂は朝倉さんの作品に宿り続けるのでしょう。
朝倉さんが田舎ならではの暮らしを心から楽しまれている様子に「遊び心を忘れない大切さ」を改めて感じました。朝倉さんのそういう部分が、作品の魅力として現れているのではないでしょうか。