鳥取市から南下し、智頭町へ向かう道中に広がるのは穏やかな農村。
田園風景を眺めながら目的地に車を進めると、「智頭宿」と言われる農村とは一風変わった、趣のある建物が並ぶ通りへと辿り着きました。
道の両脇にずらりと歴史ある古民家が建っている町並みは、まさに情緒的。その中で、古民家でありつつも現代的にリノベーションされた一段と目をひく建物がありました。
この建物こそ今回の目的地である、ゲストハウスを含んだ複合施設「楽之(たのし)」。美しく改修された古民家を興味津々に眺めていたところ、優しくてハリのあるお声をかけてくださる方が。
楽之の立ち上げから運営を行うオーナー・竹内 麻紀(たけうち まき)さんです。
今回は最初に施設内の案内をしていただけることに。早速入口から興味深いお話を聞かせてくださりました。
▲まず驚いたのが古い鉈を加工したこの入口の取手。かつて金物屋だった築100年以上の古民家の蔵には大量の在庫が残されてあり、それを取手として再利用しているそうです。
施設内では金物屋だった古民家の特色を活かした、個性的な工夫が随所に施されています。
最初に案内していただいたのは1階、まさに古いものと新しいものが融合した空間となっている「みんなの食堂」です。こちらではイタリアン食堂で学んだシェフによる、地元の旬の食材を使った自然派イタリアン料理をお楽しみいただけます。
その食堂の入口で私たちを迎えてくれたのは鎌のシャンデリア、「鎌シャン」または「鎌デリア」。インパクトはもちろん、ユニークで美しい照明器具に思わず見入ってしまいます。材料の鎌は蔵に残っていたもので、智頭在住の現代アーティスト・淀川テクニックさんによってシャンデリアに生まれ変わりました。
▲写真:楽之HPより
食堂の奥には「林業の町」の力を感じさせるような、大きな1枚板の机が置かれています。
この机がもたらすのは空間の一体感。大きな机をみんなで使うことで知らない人同士がお喋りを楽しんだり、友達になったりするきっかけになっているそうです。
また、店内で小さなお祝い事が行われた時、初めて会った方も一緒になってみんなでお祝いしたこともあったのだとか。その場所で偶然出会った人たちによってドラマが生み出される様子を見ることは、竹内さんにとって嬉しい瞬間のひとつなのだとおっしゃいます。
▲巨大な一枚板の机。インテリアとしてだけでなく、コミュニケーションの場としても生かされています。
▲食堂の外に連なる蔵。一番大きい蔵はイベントホールとしても利用されていそうです。
続いては2階のゲストハウス。
やさしい照明の光と天然木の温もりに、なんとも心が落ち着きます。内装は現代的に生まれ変わっていますが、頭上には巨大な梁が。とても立派な民家であったことを想像させ、古き良き古民家の趣を残しています。
▲旅人たちが集まるドミトリー。頭上の大きな梁は圧巻です。(写真:楽之HPより)
▲最上部のお部屋の窓からは牛臥山(うしぶせやま)と智頭宿の街並みを眺めることができます。楽之全体の設計を行なったのは智頭の建築設計事務所のPLUS CASAさん。智頭の空き家問題にも尽力されていて、この場所が様々な人が集える場になるようにと丁寧に打ち合わせを重ねながら場づくりを一緒に進めてこられたそうです。
竹内さんはこのゲストハウスについて「みんながやりたいことをできるように、あかりを灯す場所」でありたいとおっしゃいます。そしてゲストハウスの完成も、まだゴールではないと。
「地域の人、移住者の人、旅の人、色々な人がさらに繋がり、集まれる場を目指していきたい。そうあり続けたい」
そうおっしゃる竹内さんの言葉には、未来を切り開いていく力強さを感じました。
次回は竹内さんが楽之を作ったきっかけについてのお話です。施設内に散りばめられた工夫の数々、その誕生秘話にフォーカスしました。
続きはこちら→〈温故知新のつながり|みんなで楽しむ居場所づくり②〉
#鳥取
「楽之」という名前の通り楽しめる要素が盛り沢山でした。お越しになられた際はコミュニケーションを楽しむのはもちろん、何気なく置かれている家具、照明器具、本など、色々なものに注目して発見を楽しむのもおすすめです。