ほんものの地酒を、鳥取から世界へ|中川酒造①

中川酒造 中川雄翔さん

鳥取県内でも有数の歴史の長い蔵元、1828年(文政11年)創業の中川酒造を訪ねました。

中川酒造は、鳥取駅から車で5分程度の立地ということもあり、観光客の方から地元の方まで気軽に立ち寄れる蔵元です。

▲観光客や地元の方が訪れる中川酒造の店頭の様子。店頭では試飲をしながらお気に入りの酒をのんびり選ぶことができます。

 

 

伝統を守りながら、丁寧な酒造り

 

代表的なブランドは、最初の時代から長年地元で愛され続けてきた「福寿海(ふくじゅかい)」。そして、地域の独自性をいかした、本当の地酒を作りたい、という思いから生まれた「いなば鶴」です。

仕込み水には近隣の良質な弱軟水の湧き水を使い、日本海の厳しい環境の中で育つ魚料理と合わせても、味負けをしない辛口の日本酒造りに定評があります。

 

▲昔ながらの作りの蔵内。現在では修繕できる大工もなかなかいないとのこと。

▲日本海にそそぐ鳥取県の三大河川のひとつである千代川水系の良質な水を仕込み水に使用。

▲現在も昔ながらのやり方で、蒸米・放冷を行っておられます。

▲搾った酒を貯蔵するタンクも歴史を感じます。貯蔵期間や貯蔵方法で酒質が変わるのも日本酒の醍醐味。 

 

「私たちは、酒をつくるのが仕事ではないんです。酒をつくってくれるのは菌の仕事。だから僕たち蔵人は菌たちが働きやすい環境をつくるのが仕事。どの工程でもむらが出ないように、とにかく丁寧に」

長年従事している蔵人の中には菌が見えてくる、と言われる方もいらっしゃるそうです。

 

 

突然の転機、静かなる闘志

 

中川酒造の現在8代目となる、中川雄翔(なかがわゆうと)さんは、以前県外でお酒造りとは関係のない仕事をしておられました。

しかし、4年前先代のお父様がご病気になった時、鳥取へ戻り酒造りすることを決意されたそう。それから半年間は、住み込み修行で静岡の酒造所へ。早朝からみんなの朝ごはん作り、夜間は2時間毎に、お酒の温度を調べて中身をかき混ぜ作業など昼夜問わず、がむしゃらに修行に身をおきました。

技術センターでも酒造りを学び、お父様とは他界する前の1年と数ヶ月だけ一緒に酒を造られたそうです。

「私はまだまだ酒のことを分かりきっていない半端者であります。父にはもっと酒造りについて、いろいろ教えてほしかったです」と、しみじみ語ってくださいました。

 

▲今回お話を聞かせてくださった、8代目中川雄翔さん。好きなお酒をお尋ねしたところ、「先代がよく飲んでいた『いなばの恵み』を飲みます。酔い覚めの良いタイプなんです」と、お父様との思い出を交えながら語ってくださいました。

 

 

酒米・強力復活への道のり

 

中川酒造の「いなば鶴 強力(ごうりき)」は地元の篤農家、鳥取大学と共に米作りから挑戦したお酒です。

先代の中川盛雄さんは、本来の地酒とは、「原材料の地域性や伝統、独自性があるべきではないか」と考え、より鳥取に根差した地酒を造りたいと考えていました。そんな中、昔は鳥取で盛んに栽培されていた強力という酒米があったことを知りました。

 

昭和29年に姿を消していた強力。種子が見つからず、四苦八苦しましたが鳥取大学内に冷凍保存されていた一握りの種子が見つかり大学より提供を受けました。

35年もの間、冷凍されていた種子が芽を出すのかは全く未知でしたが、育てたところ芽を出すことに成功。そこから、思いに共感してくれる熱心な農家に巡り合い、酒米「強力」は平成元年に復活したのです。

 

▲元農業試験場長・西尾隆雄氏。強力復活に尽力した第一人者のひとり。

 

 

農家さんに報いるために、最高の米で最高の酒を

 

収穫した強力で、まずは50パーセント精米を試しましたが、当時の杜氏が「まだいける」と40パーセントまで削ったところ、ひび割れもなく品質も申し分ないことが分かりました。

そして、苦労して作った農家さんに今できる最高の酒を飲んでほしい、と生まれたのが、純米大吟醸「強力」です。

それから平成の30年間で鳥取の酒といえば「強力」といわれるまでになりました。

 

▲全量強力米を使い、最初にできた酒「いなば鶴 純米大吟醸 強力」

 

「東北や他の地域の酒は飲んだことはあるけど、山陰の酒は飲んだことがないという方はまだまだ多い。山陰、日本にはこんなにおいしいお酒になる米がある、ということを伝えていきたいんです」

と語る中川さんは現在、鳥取県のチームで県外の他、インドなどにも鳥取の日本酒を輸出されているそうです。

  

「鳥取東部では、日本海で採れた旨味のある魚料理に合う、純米酒を温かい燗酒で飲む文化があります。冬はもちろん、夏に汗をかきながら飲む燗酒も余韻に浸れる旨さです。日本酒は、料理とのペアリングでも飲む器でも、熟成年数でも全く違う表情をみせてくれるおもしろい飲み物です。まだまだ日本酒の可能性を広げ、酒の個性を引き出して日本酒ファンを増やしていきたいですね」

 

中川さんのやさしくも力強い言葉から、山陰の地から世界へ、日本酒が大きくはばたく未来が見えるようでした。

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中川酒造 中川雄翔さん

鳥取市立川町2丁目305

HP:https://nakagawa-shuzo.com/
TEL:0857-24-9330

ライターのコメント

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ライター

柳田 洋子

いなば鶴純米大吟醸は、カレイの煮付けなど、醤油の甘辛い煮魚料理との相性が抜群です。ぜひ、いろいろな料理とのペアリングをお楽しみいただきたいです。今の季節、おでんなんかもいいですね^^

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同じ米でもこんなに違うの…?と驚きます。味わいの違いをお楽しみください。