私がとりのひとライターを始めて一番最初に訪れたのは、鳥取県と兵庫県との県境に位置する人口約1,400人の小さな村、西粟倉村にある「西粟倉・森の学校」。現地に足を運んでみると、温かみのあるおしゃれなカフェと、苺が栽培されているビニールハウスが。
一面を緑に囲まれて田舎らしくもありながら、なんだか面白そうな場所にたどり着き、私の胸が高鳴りました。
西粟倉村・森の学校とは
廃校になった小学校の職員室で産声を上げた西粟倉・森の学校。もとはといえば西粟倉村をはじめとした周辺地域の資源である森林に目を向け、木材加工や商品開発、販売から始まった場所。しかし現在では、「人と地域資源の組み合わせで価値を生み出すモノづくり」というコンセプトのもとで、木材だけに関することにとどまらず、いちごの生産、カフェ運営なども行っておられます。
参照:コンセプト | 株式会社 西粟倉・森の学校 (morinogakko.jp)
「近くに住む人々が来ていただける場所にしたくて。身近で暮らす人たちの暮らしが豊かになって楽しくなるほど価値のある場所になるから」
そうお話くださったのは、西粟倉・森の学校代表、牧 大介(まき だいすけ)さんです。
学生時代には森林生態学を専門として研究をしながら、田舎を訪ねては山菜を採ったり食べたり、地元の方に色々な話を聞いたりと、以前から野遊び好きだったと言います。そんな牧さんが仕事の関係で西粟倉村と関わり始めたのは2005年頃。
当時の印象としては、道の駅とあわくら荘という宿舎、飲食店では90歳のおばあちゃんがお好み焼き屋さんを営まれているような、のどかな集落だったそう。
しかしそんな小さな村にも、見渡す限り生い茂る森の木々、豊富な資源が。牧さんが西粟倉村を訪れるようになった当時から木材はたくさんあったけれど、加工するような流れができておらず、切った木は十分に活用されることなくそのまま原木市場へ丸太のまま売られていたのでした。
「なんとかここで付加価値をつけ、林業の六次産業化を村ぐるみで進めていきたい」。そのためにつくりあげたのが、西粟倉・森の学校だったとのことでした。
▲ 取材後に足を運んだ、西粟倉村の最北端にある若杉原生林。村の資源でもある大きな樹木が立ち並んでいました。
「DIYをしたり暮らしを作っていくことは、田舎の人のほうが熱心で、時間も余裕があったりするんですよ。」と牧さん。
「都市部にすむ人たちだけでなく、もっと身近な村の人や、周りに住んでる人たちが来てくれると。そうするとここで住む人たちの暮らしが豊かに楽しくなり、それに伴って価値のある場所となり、その結果お客様がこの村を訪れてくれる。そういう流れを作りたい。」
そんな牧さんや周りのスタッフたちの思いが、木材工場のそばに、苺摘み体験ができる施設やカフェが併設されている理由でした。
西粟倉・森の学校では、それまでの西粟倉村にはなかったような数多くの事業を立ち上げることで、自然と人々がこの村の資源である木々に触れ合えるような仕組みが成り立っています。
▲ 今年3月に西粟倉・森の学校の傍らにオープンした「BASE 101% -NISHIAWAKURA-」には、雰囲気のあるレストラン&カフェ、木材工場、そして向かいにはいちごハウスが並んでいる。
▲ レストラン&カフェの店内には、西粟倉村を初め周辺地域の方が作ったこだわりの品々が並ぶ物販も。
またこの場所へは、お食事や苺摘みに来られるお客様の他に、企業研修や視察のために来訪される方も多いそう。 村の山に詳しい方を招いて森の案内をしてもらい、 山の中に入って一緒に自然薯や山菜を採ったり、キャンプをして焚火を囲んだり。
オンラインで直接顔を合わせることなく仕事をすることも多い現代、野遊びをすることがチーム作りの一環となり、それがとても価値のあることになると教えていただきました。
自身の研修のために西粟倉・森の学校を訪れた人々が、日頃はできない山遊びの楽しさに触れることで、田舎暮らしや山遊びの魅力に気づく。また、そうした人々が村内で食事や買い物を楽しんだり宿泊をすることで、企業や村全体の力になる。牧さんのお話を聞いていて、すべての流れに確かなつながりと意味を感じました。
牧さんが提唱している「ローカルベンチャー」。
地方で起業をするということは、はじめは村の人たちにとってはよくわからないことばかりで、なんとなく距離があるもの。しかし、村の資源を活かしながら、そして時には助けてもらいながら走り続ければ、「またやってるなぁ」という感じでじわじわとその距離が縮まっていくそう。
今ではⅠターンをして起業する人ばかりでなく、ネイティブ村民さん(もともと西粟倉村のご出身の方)でも起業をする方もおられ、「西粟倉村はすでにローカルベンチャーの村という感じの流れがしっかりできている」と牧さんは実感しておられました。
今後は空き家の管理に困る村民の意見も取り入れ、一棟貸しの宿泊施設なども検討されているそう。
新たにできた 「BASE 101% -NISHIAWAKURA- 」を拠点として、森と村、そしてそこにいる人たちの魅力に触れられる、更に更に面白い場所になっていくのだろう。そう思い、また私の胸は高鳴っていたのでした。
穏やかな口調で、終始和やかな雰囲気で取材を受けてくださった牧さん。まだまだご紹介しきれないほど沢山の事業を手掛けられている、遊び心もたっぷりの格好いいお方でした。また鳥取へウナギ釣りにいらしてくださいね。