前回の記事はこちら→〈ふらりと集う場所を目指して|みんなで楽しむ居場所づくり①〉
地域の人、移住者の人、旅の人、さまざまな人がつながる複合施設「楽之(たのし)」。
その魅力は「ゲストハウス」や「飲食店」という言葉だけには収まりません。人々を知らず知らずのうちに集める「居場所」としての魅力が、この場所にはありました。
今回はこの居場所としての楽之をつくられたきっかけについて、オーナーである竹内 麻紀(たけうち まき)さんにお伺いしました。
竹内さんは智頭生まれの智頭育ち。ずっと智頭の町を見て暮らしてきました。
お子さんが産まれてからは子育て中心の生活、当時の竹内さんにとってはそれが当たり前の生活となっていました。その反面、ご自身のお子さんには好きなことをして生きてほしい、と強く思うようにもなったのだそうです。
そしてある日、妹さんにそのことを話したところ、思いもよらぬ返事が返ってきました。
「お姉ちゃんはしたいことやってる?」
この一言で「子供は親の背中を見ている」ということに気づき、竹内さんはドキッとしたと言います。妹さんの言葉は「自分は何がしたいのか」ということに対して向き合うきっかけとなりました。
その後、マッサージを習いに行き、家の一室でセラピーの場を作ることで「やりたいこと」を少しずつ始めた竹内さん。その後も学びは続き、事業としての「居場所づくり」を想像するようになります。
移住者の方も増え始め、智頭の魅力を改めて感じる中で、外から来るお客さんはもちろん、智頭の地域住民の方にももっと智頭を楽しんでもらえたら…と。
また、十数年前の合併問題、移住者と地域住民の関わりなど、色々な思いの渦巻きを見てきた竹内さんは、ずっと人間同士の壁を無くしたいとも思っていました。「誰でもフラットにいられて、気持ちよく過ごせる場所」が理想なのかもしれないと、居場所づくりのイメージは次第に明確になっていきます。
▲机に作り替えられた古い建具。随所に見られる多世代の交流のきっかけになるような工夫は、竹内さんの居場所づくりへの思いの表れのように感じます。
居場所づくりの構想を練る中、竹内さんにふたつの運命的な出会いが訪れます。
その一つ目は「人」、現在食堂でシェフを勤める方との出会いでした。
彼は移住者であり、最初は竹内さんの家業の建設業に勤務していました。ある時竹内さんが考えていた事業について打ち明けたところ「自分は料理が作れます。
二つ目は「場所」、解体現場で見た古民家の姿です。
建設業も営む竹内さんの元には、古民家の解体依頼が数多くありました。「いい場所だしもったいないと思うこともあったけど、なにもできない」と悔しい思いをしたことも多々あったそうです。しかしこの智頭宿の古民家を見た時「気持ちのいい場所だな」と直感し、解体ではなく譲っていただけないかと、同じく楽之オーナーである夫の成人さんにお願いし持ち主の方との
このふたつが重なり、想像していた事業としての居場所づくりは形のあるものへと変化していったのでした。事業を始めるにあたり、竹内さんがこだわったのは地元との関わりを大切にすること。
「新しいだけのものだと、繋がりが切れてしまう。できたものを「はいどうぞ!」とお見せするのではなく、どんな風に変わっていくのかを一緒に楽しんでほしい」
地域の方にも興味を持っていただきたい、喜んでいただきたい。そういう思いを大切にしながら、竹内さんは地域の人も巻き込んだ居場所づくりを始めました。
▲改修途中の古民家で行ったワークショップ。地域の方々にも積極的に参加してほしいという思いから、告知には回覧板を用いることもあるそう。(写真:楽之HPより)
そして今では挨拶程度だった方々が仲良く話すきっかけの場となっている、竹内さんのつくった居場所「楽之」。それは地域の方だけでなく、移住者や旅の人、初対面の方々も気兼ねなくコミュニケーションを楽しめる場所です。
「話してみると意外と何かの共通点が見つかるものなんです」
楽之は古いものも新しいものも、地域の方も外から来られた方も、色々なものが混ざり合った空間。
だからこそ、どんな存在でも気軽に受け入れてくれる居心地のよさがあるように感じます。
▲蔵に残されていた麻紐を壁に塗り込んで、アートとして活用しています。施設内には事業に関わるメンバーたちで出したアイデアが至る所に。
最後に今後挑戦してみたいことを伺うと、
「シェアハウスをつくりたいです。単身の移住者がすぐに住めるようになったり、2拠点生活を可能にしたり、色々なことに対応できるような場所にしていきたい」
と、またひとつ大きな目標をお聞かせいただくことができました。
さらなる夢を持つ竹内さんですが、実は挑戦する中でドキドキすることも、難しいと思ってしまうことも少なくないそうです。
「なにかをするって、そういうことなんだと思います。でも今はここで繋がった仲間たちがいる。みんなそういう気持ちになりながらも頑張っている。その姿を見て自分もやろう、と思うことができるんです」
仲間思いで芯のある、そして力強い一言。悩むことがありながらも、竹内さんは覚悟を決めて前向きに進んで来られたのでしょう。
仲間たちがたくさん集まる竹内さんのつくった居場所は、そのお人柄そのもののようで、前向きな力に満たされていました。
#鳥取
智頭町で取材を進める道中、以前楽之に訪れたことがきっかけで智頭に移住を決意した方をお見かけしました。竹内さんの話を聞いた直後だったこともあり、本当に人のつながりが生まれている瞬間に思わず感動。それと同時に、明るい笑顔で人を迎え入れる智頭の方々を見て、私も温かい気持ちで満たされたのでした。