前回の記事はこちら→〈喜びに満ちた酒造り|若桜・太田酒造場①〉
鳥取県八頭郡若桜町で、100年以上酒造りを続ける太田酒造場。
太田酒造場は、2004年から原料となる酒米づくりに力をいれています。
「日本酒業界では『猛暑の年は酒が薄い』は通例と言われてきました。夏が暑すぎると、米の組織が種を守ろうとして硬くなるので、水に溶けづらくなります。だけど、若桜の米は、適度に柔らかく水に溶けるので、私たちが目指すしっかり米を溶かした酒造りにはとても良かったんです」
と言われるのは、5代目社長 太田章太郎さんです。
もともと綺麗な山水が湧き出る若桜町は、水も豊富で山間地特有の地形が生み出す、昼夜の寒暖差が米栽培にはとても適していました。
素晴らしい環境も後押しし、現在は自社栽培の他にも契約農家さんを増やし、全量を地元若桜町で賄っておられます。
町の面積の95%以上が森林。山から豊富に湧き出る水は、田畑に実りをもたらします。
太田酒造場では、酒造りの仕込み水は地下水・井戸水でで全て賄っています。〈写真:太田酒造場HPより引用〉
そして、太田酒造場では米の種類だけでなく、同種類の米でも生産者によって製造タンクを分けています。
「例えば同じ野菜でも作る生産者によって味が違うでしょ。それと同じです。同じ品種でも生産者が違えば、できる酒も違う。年によって微妙に違うときもあれば、全然違う!と驚くこともありますよ。そこが面白いんですよ」
と言われ、なるほどと納得しました。
生産者と共に――、酒造りは、米づくり
「うちは、こういう味に仕上げようと味の設計をしません。米をなるべく磨かず、お米をしっかり溶かして発酵したら、今年はこの味になりました、という結果がそのまま味になるんです」
と言われる章太郎さんですが、その分原料となる酒米には徹底的にこだわっておられます。
太田酒造場では、酒米の生産者ごとに栄養分と関係する葉っぱの色合いをチェックしたり、株の大きさから太さ、穂の長さまで定点観測したものを数値化しています。そして、その結果を生産者へフィードバックして、品質向上に努めておられるそうです。
酒米は全部で5種類。「玉栄」・「山田錦」・「五百万石」・鳥取の復活米「強力」・県の新品種「鳥姫」を使用されています。 〈写真:太田酒造場HPより引用〉
「酒米作りは、父親も杜氏ももちろん僕もやっています。自分たちでも米作りしているので、いい米ができるとなるべく磨きたくないんです。酵母もなるべく華やかな香りが出るものは使いたくない。お米が持っているものがそのまま出るのが、うちのお酒の特徴です」
※米を磨くとは、精米をして、米の外側を削ること。
現在の太田酒造場の真骨頂である、米をしっかりと溶かした純米酒は、こんな風にできているのだなと知ることができました。
蒸した米は、中心部に熱が残るのを避けるため放冷機は使わず粗熱を取り除いています。 〈写真:太田酒造場HPより引用〉
燗して尚良く
最後に、章太郎さんに太田酒造場のお酒の楽しみ方をお伺いしました。
「辨天娘の純米酒は、蔵を出た後も成長を続けていくので、ゆっくりと味わいの変化が楽しめるお酒です。お客さんの料理店では、届いたら最初に栓を開けて、3か月たってからお客様に出し始めるところもあるくらい。空気に触れている期間が長いとだんだん味が開いてきます。さらに、燗がおすすめですね」
燗にすると、お米が多く溶け込んだ純米酒は、炊き立てのあったかいご飯のように、ふっくらと華開くように香りも味も広がるそう。
原料となる酒米を作られる農家さんにも思いを馳せることができ飲み比べもできる、さらには急いで飲む必要もなくじっくりと変化が楽しめる――。なんて贅沢なんでしょう!
その日は、章太郎さんおすすめの純米酒を購入して、つまみは刺身かな?!なんて、考えつつ晩酌を楽しみに帰路についたのでした。
#鳥取 #日本酒
地元で酒米の生産者さんと共に、日本酒を作る太田酒造場さん。章太郎さんのお話を聞いて、地域の繋がりを強く感じることができました。
買ってかえった辨天娘は、燗でいただきました。