紡ぐ蔵人たち|米子市・稲田本店②

稲田本店 築谷 真司さん・太田 竜義さん

前回の記事はこちら→〈縁を結ぶ「稲田姫」|米子市・稲田本店①

鳥取県米子市に位置する創業350年の酒蔵「稲田本店」。
老舗として縁を結ぶお酒をつくり続けるこちらの酒蔵で、酒づくりを行う蔵人・太田 竜義(おおた たつよし)さんにお話しを伺うことができました。

蔵人になって9年になるという太田さん。

酒蔵で働くということ

太田さんは元々医療関係の仕事に従事されており、実は稲田本店で働くまでお酒についてもあまり興味がなかったそうです。そんな太田さんが酒づくりに興味を持ったきっかけは、ハローワークで募集されていた仕込みの短期アルバイトでした。
米子に酒蔵があることもその時初めて知ったそうですが、「面白そう」と興味本位でアルバイトを始め、その後社員として勤めることになったそうです。

「今は釜屋(かまや:蒸米係)をやっています。朝6時から勤務開始で、7時には大きい釜で本格的に釜蒸しができるように準備します。一時間ほど蒸しの時間があって、その後に取り出して麹にするお米と、そのまま仕込みタンクに入れるお米を取り出して、また明日の準備をする。この作業はかなり熱々の、モクモクの蒸気の中でやります」

優しい笑顔でご自身のお仕事について話される太田さんに対し、営業の築谷さんは
「仕込みに入ると目つきが変わって、一気に蔵人になるんです。蔵人はオンシーズン、オフシーズンのギャップが凄くて、オンシーズンでは職人に変わります」
とおっしゃいます。

高い場所での作業もあれば、高温下での危険な作業もある酒づくり。非常に繊細な管理が必要になるため、オンシーズン中は夜通しで作業を行うことも。(写真:稲田本店Instagramより)

そのような姿が想像できないくらい、目の前の太田さんは朗らかな表情でお話しをされていますが、実際仕込みのお仕事というのは常に危険と隣り合わせ。怪我なく作業を進めるため、時には厳しい指導や注意が必要なことも。安全のため、そして美味しいお酒のため、蔵人たちは職人の目を持って、細心の注意を払いながら作業を行なっているそうです。

そんな厳しい酒づくりの世界で太田さんが最も喜びを感じた瞬間は、品評会でご自身のつくられたお酒が金賞を受賞した時でした。

「(金賞を受賞したのは)正社員になって初めの年でした。その後も2回ほど賞を取らせていただいたのですが、あの時は超えられない(笑)」
多くは語らずとも、当時の思い出をなんとも嬉しそうに話してくださった太田さん。筆舌に尽くしがたいと言わんばかりの喜びを、その表情からは感じ取れた気がしました。

数々の受賞歴。たくさんのトロフィーが飾られてありました。

酒づくりだけではない蔵人の仕事

オンシーズンでは蔵人は酒づくりに大忙し。では、それ以外の時間はどのように過ごされているのでしょうか?
お聞きしたところ、自社栽培の酒米を育てる田んぼの管理もあれば、社内での出荷のお手伝いなどが主なお仕事となっているようで、蔵人とはいえ色々な業務に携わっておられるご様子。

夏は田んぼの草刈りがあり、冬は麹室で汗を流しながらの作業。一年中体を使った仕事を行なっていることから、太田さんは酒づくりを「体力勝負」だとおっしゃいます。

オンシーズン、室温が35度程度に保たれた暑い麹室で作業を行います。(写真:稲田本店Instagramより)

「オフシーズンでは多めの休みをいただくこともありますが、今くらい(10月中旬)から蔵人はちょっとづつ気をはりつめて、そろそろだな…とオンシーズンに備えます。
来週から麹作りを始めるので、今はお掃除したり準備したり、みんな気持ちを昂らせていってます」

取材に伺ったのは10月中旬。酒づくりの本番を控え、蔵人たちはひっそりと職人としての自分を奮い立たせているようでした。

仕込みの準備中の施設。

そんな太田さんは今後、酒づくりはもちろんのこと、企画や営業の方と話し合う機会を増やしたり、お酒を販売する一連の流れを幅広く勉強していきたいそうです。
それは稲田本店で「もっと面白いこと」を実現していくため。蔵人というと酒づくり一本で仕事を行なっているというイメージでしたが、実際は酒づくりに関わることに幅広く取り組まれているのだと知りました。

世界に羽ばたく鳥取の「稲田姫」

ここまで編集室メンバーを案内をしてくださった築谷さんですが、普段は海外営業の担当としても活躍されてるのだそうです。最後にどういう国で販売されているのか気になり伺ってみたところ、なんと稲田姫の販路は全世界!

海外営業を担当される築谷さん

各国の地域の気質の違いによって人気のお酒もそれぞれ。物流や関税の影響もあり、販売価格は日本と比べると3倍以上になることも。そう聞くと海外での販売は非常に難しいことのように思いますが、それを可能にするのが築谷さんのお仕事。

「ただ売れればいいではなく、ちゃんと説明して、納得して飲んでいただきたいという思いです。ある程度高いお金を払って飲んでいただくことになるので、それだけの価値観を見出してもらわないとダメ。だから現地に行ってちゃんと話をします」

ご自身で直接魅力を伝えることにこだわる築谷さん。しんどい時もあるけれど、人との出会いがあって、稲田姫をつくってくれるみんながいて、それを美味しいと喜んでくれることがなによりもモチベーションになるのだと教えてくださりました。

酒米を栽培する人、お酒をつくる人、売る人、そしてそれを飲んでくれる人。それらの「縁」が巡り巡って、またお酒づくりへのモチベーションとなり糧となる。
創業350年。それは稲田本店の酒づくりの歴史であると同時に、彼らがずっと大切に繋いできた「縁」の歴史でもあります。
そんな素敵な繋がりを世界中にも広げているお酒が鳥取にはあるということを、私はとても誇らしく感じたのでした。

休憩スペースには密を避けるためのタヌキたち!遊び心満載で、気軽に訪れたくなります。

 

#鳥取 #日本酒

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稲田本店 築谷 真司さん・太田 竜義さん

稲田本店
〒683-0851
鳥取県米子市夜見町325−16

ライターのコメント

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ライター

中前朱理

今回お酒についてたくさんのお話しを伺い、地酒が本当に魅力あふれるものであることを再認識しました。たくさん種類があることも学べたので、また色々飲み比べしてみたいです!