自分の表現したいことを形づくる。小さな町だからできること|鳥取を旅する③

森の生活者 森木 陽子さん

〈前回の記事はこちら→つながりの密度を求めて|鳥取を旅する②

町の中で、ひとりを愉しむ時を

丸さんのお気に入りのお店が袋川沿いにあると聞き、アーケードを駅に向かって歩く。若桜橋の袂にある古い黄緑色の建物がめざす場所。細い階段をのぼって扉を開けると棚には本が並び、コーヒーの香り。窓際のカウンターからは袋川を見下ろせて、本を片手にひとりのんびりベーグルを頬張る人もいる。

人気のモーニング。ベーグルは全粒粉を使いしっかり発酵させる。外はサクサク、中はふんわり。

テーブル席の横にそっと置かれた冊子を手に取ると、エッセーや詩が綴られた同人誌。音符や地図が描かれた表紙が可愛らしい。「2ヵ月に1回、仲間内で発行しているんです。昔から文章を書くのが好きで」と店主の森木陽子さんが声をかけてくれた。

森木さんは鳥取市出身。神戸の大学を卒業後、お店を開くことを目標にコーヒー店やベーカリーに勤務。神戸には10年いたが、東日本大震災を機に、家族が身近にいる環境で暮らそうと鳥取へ帰ってきた。

緩やかに、自分のペースで

「町の中で、ゆっくり本を読むような場所があるといいなと思って」と2012年に店をオープン。店名はヘンリー・ソローの著作『孤独の愉しみ方』のサブタイトルに由来する。「ひとりでも入りやすいお店にしたかったので、『孤独を愉しむ』って素敵だと感じて。森や星、自然に関係する名前を考えていたから、ぴったりでした」。

オープン2年目から知り合いに声をかけて毎年「パン祭り」を開催。3回目から樗谿公園での開催が定着しているが、毎年開催と必ずしも決めていない。「義務にすると楽しくないので。年に一度仲間に会える、同窓会のようなイベント」と笑う。森木さんがつくる静かで穏やかな時間の流れは、袋川のように古い鳥取の街並みによく似合っていた。

出典:さんいんキラリ 秋号 No.50

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森の生活者 森木 陽子さん

ベーグル喫茶 森の生活者
鳥取市弥生町103 柏木ビル2階

電話/0857-50-1170
営業/9時~18時
定休/月・火曜

ライターのコメント

鳥取市の袋川のほとり、弥生町にある「森の生活者」はベーグルが旨いと評判のお店。古ビルの2階、細長い店内の窓際カウンター席は、袋川や町並みが望める私が好きな特等席。紙モノ好きの森木さんが発行している冊子を読みながら一人カフェが愉しめます。