汽水空港(きすいくうこう)さんは、鳥取県の湯梨浜町松崎、東郷湖のほとりにある書店です。
一見すると少し不思議な雰囲気のする外観。
想像していたより軽い扉を開けると、またまたちょっぴり予想外の甘い木々の香りが漂う店内。
奥に進むたびに木の床がやさしく鳴ります。
壁や天井にはイベントのチラシやステッカーが貼られ、隅々にまで本が広がっています。
本の間にひっそりと潜む謎のインテリア、初めてみる言葉と言葉の組み合わせ、混沌な中にたたずむ日常のイメージ。
敷き詰められた溢れんばかりの情報の中にいるはずなのに、自然と落ち着く不思議な空間です。
▲文芸書から実用書、雑誌や絵本も。たくさんの本が並びます。
▲奥に進むとカフェスペースが。自家製のドリンクと一緒に本も読めます。隣にはレジカウンター。稲がお辞儀して迎えてくれます。
店主のモリテツヤさんは千葉から移住して11年、鳥取にお住まいになっている方。
昔から文学、絵、音楽、映画…などが好きだったモリさん。
▲汽水空港の店主・モリテツヤさんと息子さんのみちひとくん。
「畑をしながら本屋をやりたい」
土に片足を置きつつ、人間が創り出す文化を楽しめるような土地を探していたそう。
そこで出会った田んぼと畑付きの家賃1万円の空き家。
訪れた縁もゆかりもない鳥取で、初めは生きるのにも精一杯だったといいます。
田畑を耕し、左官屋で働いて日当を稼ぎ、そこで覚えた大工スキルを駆使してお店を建てられたそうです。
そして、紆余曲折しながらも、2015年、モリさんの情熱をつめこんだ「汽水空港」はオープンしました。
200年後も残る本
汽水空港の本棚には、古書だけでなく新刊も、あらゆるジャンルの本が上から下までぎっしり並んでいます。
どれも、「今から200年後の人が読んでも胸に刺さるだろうな」と感じる本を選んで置いているそう。
そこでモリさんのお気に入りの本をいくつかご紹介していただきました。
▲モリさんおすすめの本たち。
▲モリさんが第1章を執筆された本。
『懐かしい未来-ラダックから学ぶ- 』 / ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ
モリさん自身が生き方に迷っていらっしゃった頃に出会った本。「田畑をしながら本屋になる」きっかけとなった本。
『人類学とはなにか』 / ティム・インゴルド
「周りの人と向き合い、今を生きる人たち全員で生きていくために」どうしたらいいかを考えるための本。
『植物と叡智の守り人ネイティブアメリカンの植物学者が語る科学・癒し・伝承』 / ロビン・ウォール・キマラー
自然と人間の関係のありかたをユーモラスに綴った本。自然との関わり方についてモリさんが迷った時に導いてくれる一冊。
『本屋という仕事』 / 三砂 慶明
「本屋」という仕事からみる、新しい働き方の形に出会える本。モリさんが第1章を執筆されています。
▲ZINEなど、他の書店にはお目にかかれない、個人が書かれた本もあります。
「世界に幅と揺らぎあれ」
お店のキャッチコピーは「世界に幅と揺らぎあれ」。
「世界には移りゆく『当たり前』がある。その『当たり前』のレーンにはまり込めなくて迷子になっちゃって悲しむ人がいる。そんな人たちにもたくさんの、いろんな可能性があるってことを考えていきたい。」
「みんなで共に生きていく道を見つけよう!」モリさんがそう考えた時、その手段が本屋だったのです。
汽水空港のある松崎は、比較的移住してこられた方が多い町でもあります。
モリさんが初めて鳥取に来られた時よりも、今ではいろんなお店ができて活発になってきたそう。
「孤立しないような、周りの環境に出会えるところも鳥取の魅力。助け合える人たちが増えてきている。
謎の変な場所が地方にあれば、普段当たり前と思われていることとは別の選択肢が生まれる。
畑をしながら本屋をしている人いたなって、ふと思い出してくれたらいいな。
謎の場所や謎の人たちが、誰かにとっての選択肢となって、その人の可能性や生き方が広がっていけばいいな。」
正解がわからず立ち止まってしまった時。そんな時でも大丈夫、その揺らぎの時間を楽しもう。
マイペースでも、自分らしくいたらいいんだよ、そう言ってくださった気がしました。
「自分らしく」って、少し勇気のいることも。そんな私の背中をやさしく押してもらったような、あたたかい気持ちになりました。
本屋での旅
汽水空港の店名は東郷湖が「汽水湖」であることから由来しているそうです。
海水と淡水が混ざる汽水湖にはたくさんの種類の生き物が暮らしています。
汽水空港もそんなお店でありたいと話すモリさん。
「本を通していろんな知識や考え方に触れたり、ふら〜っとお店に訪れたお客さん同士がおしゃべりを楽しんだり、思いがけない出会いがある空間。今までと違う生き方や考え方と出会う『旅』ができるお店にしたい。」
▲店内に入ってすぐに棍棒がぶら下がっています。店内には棍棒のイベントのチラシもよく見かけました。
▲奥の裏口からGallary(小屋)へ続きます。期間限定で展示が行われているそうです。
将来は鳥取を離れて、現在の汽水空港の店舗はどなたかに譲る事も考えているというモリさん。
「なにかしたかったけど何もできなかった、新しいことを始めたいという思いがある人に譲りたい。
ゼロから始めるのは大変で、僕には運があったからやっていけたと思うんです。その運は巡らせるべきかなって。『やろうと思ったらできる場所』として残しておきたい。
僕はどこか広い丘の上で終わらぬセルフビルドをしようかな。小屋を建てまくる!みたいな(笑)今よりもっと自分と田んぼや畑との距離を近くしたい。」
新しい自分と出会ってみたい時、少し一息つきたい時、何かしたいなって時、ふっと汽水空港に着陸してみてはいかがでしょうか。
これからどんな物語がはじまるのか、楽しみです。
▲モリテツヤさんと奥様のアキナさん、みちひとくん。みちひとくんもたくさんお話してくださいました。
#鳥取 #
モリさんおすすめの本を購入しました。初めて読むジャンルの本。今はちょっぴり難しかったけど、もう少したってから読んだら新しい感情が湧いてきそう。そんな素敵な出会いでした。