鳥取県東伯郡琴浦町にて、150年以上酒造りを行う大谷酒造。
歴史ある蔵元で、6年目の冬を迎えられたのは杜氏の中元啓太さん。ご出身は「広島県・西条」。「兵庫県・灘」、「京都府・伏見」にならぶ日本三大酒処です。
▲杜氏・中元啓太さん。幼い頃は、「そーいえば、おやじが良く西条の酒を飲んでいたな」という程度で高校生になるまで、地元の産業に酒造りがあることも知らなかったそうです。
手をかけた酒造りがしたい
高校の専門科目で、微生物について学び「目に見えないものの働きで、発酵食品ができている」ということに感動し、微生物の凄さを感じた中元さん。
そこから一気に酒造りに興味がわき、卒業後すぐに、広島でも指折りの大きな酒造メーカーへと就職しました。そこでは、機械管理が行き届いた近代的な酒造りを経験されたそうです。
その後、「一度しかない酒造り人生を全うしたい」と考えるようになり、手作りで一から酒造りができる環境を求めて退社。信頼できる方から、大谷酒造を紹介してもらい鳥取へ来てからは、手をかけて造る酒に魅了されていきました。
▲手のひらで温度を確認しながら、麹菌を振っていきます。感覚が必要な作業です。
▲蒸米を運び込み、塊をもみ崩して温度などを調整。器具でも計測しますが、手に触れる感覚で適温かどうかわかるそうです。
心地よい人の輪が広がる、和醸良酒
私が、今回大谷酒造を訪れて強く感じたのは、蔵人たちが酒造りを楽しみ、生き生きとして見えること。
そのことをお伝えすると、「小さい蔵だからこそ、全てに責任をもって一通りのことができる、ということを大切にしているんです。人それぞれ得意なこと、不得意なことはあるけど、色々なことを経験しながら、みんなで酒を届けることが大事だと思っています」とのこと。
▲すばらしいチームワークで、掛け合う声も心地よい。ベテランから若手まで心と体を一つに酒造りをされています。
そして、こう続けられます。
「例えば、『俺は良い麹だけを作っていれば良い』とか『俺は良い酒母(しゅぼ)を作ればいい』など、一部だけに固執したとしても、飲む人には届かないんですよね。結局、最終的にできたお酒を評価してもらうことが一番なので」
こういった思いから、大谷酒造では酒造り以外にも蔵人たちが出張でお酒の説明をしたり、酒造りの見学などを行い、飲み手に思いを届ける活動を大切にされているそうです。
大谷酒造で働く方々から感じる、ハツラツとしたエネルギーは色々なことへ挑戦できる土台があってこそなのかもしれませんね。
帰り際、社長の大谷修子さんにも大谷酒造の雰囲気の良さをお伝えしたところ「杜氏がいい人でやさしいからかしらね。フフフ」と、お茶目な笑顔を見せてくださいました。
▲「お酒造りが好きなんですか?」とお声かけしたところ即答で「はい!」と力強いお返事が返ってきました。
▲明るく活気ある雰囲気でみなさん、イキイキと働かれています。
全員で紡ぎ、飲み手へ届ける
日本酒造りにおいて受け継がれてきた「和醸良酒」という言葉があります。その意味は、酒造りに携わる蔵人たちの和の心により良い酒は生まれ、良い酒はすべての人の心に和をもらたす、ということのようです。
冷たい水に触れ、重い米袋を担ぎ、蒸し上がったばかりの米に汗かきながらも、仲間と共に真摯に酒造りに向き合う和の心は、私たち飲み手の心にも確かに伝わっています。
大切なものは引き継がれ、きっとここから、また新たな伝統が生まれていくのだろう、そんな風に感じた大谷酒造。
鷹勇をこれからも応援していきたいと思います。
大江ノ郷自然牧場で働きながら、とりのひと編集室スタッフとして取材に行った内容をもとにした記事を書いています。生産者さんのお話をきくのが大好き!人となりや商品の魅力が伝えていけるよう日々邁進しています。