つくる、守り支えるひと。

因州和紙伝承工房かみんぐさじ

鳥取県鳥取市佐治町では、鳥取県三大河川のひとつ千代川の支流、佐治川が走り、その流域で紙漉きが行われています。

「和紙づくりの象徴的な場所をつくろう」

この想いを胸に佐治村の12人の因州和紙関係事業者が出資をして創立されたのが『因州和紙伝承工房かみんぐさじ』です。今回は代表の岡村寿則(おかむら としのり)さんにお話を伺いました。

▲かみんぐさじ代表の岡村さんと総務の阿久津さん。
お二人の掛け合いにほっこり。

▲岡村さんは機械漉き和紙の製造もされています。
1日に5万枚ほど生産され、全国に出荷しているそうです。

因州筆きれず

因州和紙の歴史は古く、起源は特定されていませんが、少なくともおよそ1200年以前から和紙が作られていたそう。旧因幡国にあたる鳥取県の東部で作られている手漉き和紙で、品質を高める豊富な清流や和紙の原料など自然の恵を受けて、紙すきの技術が発展しました。

現在は鳥取市佐治町と青谷町の2箇所で受け継がれ、原料には佐治は三椏(みつまた)、青谷は楮(こうぞ)を使用しています。

三椏は細かく柔軟な繊維で、光沢があり滑らかな和紙となり、書道用に重宝される高品質の和紙として使用されています。特にきめが細かく筆運びが滑らかなので「いくら書いても筆が傷まず、筆についた墨がかすれることなく長く書ける」この2つの意味から「因州筆きれず」とも呼ばれているそうです。

一方楮は繊維が太く強靭で、楮を原料とする和紙は厚手で強く、加工がしやすいために幅広く使用されています。

▲和紙の原料です。この状態から原料を煮て脱色して使用します。(画像:かみんぐさじHPより)

一枚一枚に心を込めて

実際に紙づくりをされているところを見せていただきました。紙一枚つくるのに一日ではつくれません。この日は紙漉きと紙の乾燥の作業でした。かみんぐさじの職人さんは全員で4名。子供の頃から家業を手伝ってこられたり、40年、50年と長い間因州和紙に携わっておられる方がほとんどです。

紙漉きは、流れてくる原料を一枚一枚漉いていく作業になります。簀(す)の上で原料に水とのりを混ぜたものをためて漉く。紙の表情を見ながら経験や感覚で、均一で希望通りの厚みにするそうです。

ちゃっぽんちゃっぽん、素早くて簡単に見えてしまうのですがとっても難しい熟練の技です。

この日は紙作りに携わって40年、男性の職人さんが作業をされていました。

「今日はいつから紙漉きをされているんですか?」と尋ねると「朝からずっと止まっていませんよ。」とにっこり。

力強い職人さんの素早くてなめらかな手捌き、水の音が心地よくてずっと見ていられます。

▲紙漉きの様子。一枚ずつ丁寧かつ素早く、ノンストップです。

▲一日におよそ300枚生産されるそうです。職人さんの後ろ姿、かっこいいです…!

漉いた紙は重石をし、1日かけて水気をとります。

その後、紙の乾燥の作業に入ります。紙を一枚ずつはがして鉄板の上に貼りつけて、熱で乾燥させていきます。

紙の厚さによって感覚で温度を微調整されているそうです。

乾燥の作業をされていた方は、元々は岡山県出身。大学の卒業論文の調査で「かみんぐさじ」に訪れ、調査を進める中で紙漉きの魅力に引き込まれたそう。「ここで働かせてください!」とそのまま弟子入りされたとのことです。現在は3年目で、原料加工から紙漉き、乾燥までの工程まで一通りできるそうです。

▲紙を一枚ずつはがして鉄板に貼り付けます。紙の厚さや湯気の量などを見て感覚で鉄板の温度を調節しているそう。

▲乾燥後の和紙。薄く簀の目がつくのが手漉き和紙の特徴。

乾燥させることで見えなかったゴミやかすれなどが見えてきます。

▲乾燥させる時に使用するはけ。
職人さんそれぞれが使いやすいものを使用されているそうです。

「因州和紙を消してはいけない」

和紙業界の中でも鳥取の因州和紙は高いブランド力を誇っています。しかし後継者不足もあり生産量は少ない状況にあります。

そんな中かみんぐさじでは、少しでも因州和紙を身近な存在として知っていただけるように様々な活動を企画されています。

地元のデザイナーさんとのコラボ商品の開発や、鳥取県からのご依頼を受け、鳥取砂丘に生える外来草「チガヤ」をリサイクルし、レターセットとして製品化されたそう。除草ボランティア参加者の方たちにも記念品としてお贈りし、喜んでいただけたとのこと。

かみんぐさじの販売所では、書道用紙だけでなく、コースターやランチョンマットなどのような和紙の特性を生かした加工品も販売されています。輪じみやかすれなどからつくられる唯一無二の柄と和紙のナチュラルな風合いがとっても素敵でした!

ワークショップや手漉き和紙体験も行っており、ものづくりに興味がある方だったり県外の方もよく来られるそう。

▲地元のデザイナーさんとコラボしたレターセット。
鳥取県の満天の星空に浮かぶ12の星座がイラストになっています。

▲和紙の原料に「チガヤ」を混ぜて漉いたポストカード。
グラデーションになっていて雑草と思えないくらい綺麗!

「消費者の近くにいて、使う人の意見や声を聞きたい。書道用紙以外の使い道も考えて広げていかないといけない。」と岡村さん。

紙作りにぴったりの豊かな自然とその恵みを生かす職人さん、それを守る人、支える人たちがいます。

佐治の町とともに手漉き和紙の可能性もさらに広がっていってほしいと思いました。

#鳥取 #伝統 #手仕事

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因州和紙伝承工房かみんぐさじ

〒689-1316鳥取県鳥取市佐治町福園146-4
TEL/0858-89-1816
FAX/0858-88-0235
営業時間/9:00〜16:00(水曜定休)

ライターのコメント

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ライター

西村初花

杉の木を原料とした和紙のコースターを購入させていただきました。3ヶ月ほぼ毎日使っていますが、へこたれないし、輪じみができて和紙特有の味があってかっこいいです。