中国山地に囲まれた広島との県境に位置する邑南町、於保知盆地を見下ろす峠を越えて向かうのは「こめじるし」さん。知る人ぞ知る、森の中にある小さなカフェ。木漏れ日に包まれたドライブで聞こえてくるのは小川のせせらぎと鳥の声、窓を開けて思い切り深呼吸をしたくなる。小さな看板があるだけで、通りすぎてしまいそうな一軒家のこのカフェは、ホタルが舞う高水川のほとりにありました。どこかグリム童話の森の家といった雰囲気です。
こぢんまりした店内も素敵すぎる。小さな焙煎機が音を立て、棚には店主が見立てた器や民芸品が並び、大きな窓から森の景色が素通しです。古物の薪ストーブがおかれた古材を活かした空間を照らすのは裸電球と、すべてが落ち着いたインテリア。だからだろうか、この店はひとり客も多く、私もそんなひとり。椿や楓の隙間から柔らかな光が入った窓辺で、たかきびバーグのベジバーガーを注文する。食事の献立はバーガーとピザトーストの2種で、これがとっても美味しいと評判です。
時間を忘れてゆったり食事とコーヒーを楽しむ
民芸に惹かれ、2015年に店を構えたのは、広島県出身の米田光希さんと、山口県出身の幸さん夫妻。この地を選んだのは、邑南町に住んでいる光希さんの祖父の家を拠点にしながら、山陰の民窯巡りをするうちに移住を決意。その後、築50年のこの古い建物と出会い、改装してカフェを営むことに。
趣味の家として使われていた構えはそのままに、古材をいかした床には手作りテーブルと椅子が並ぶ。
独学でロースターとなった光希さん。昔からヨガや焼き菓子づくりが趣味の幸さんが一番の基準にしていることは、「おいしくて体に優しいもの」。近くの農家さんから仕入れた有機野菜や自家栽培米の米酵母で作った自家製天然酵母パンのベジバーガーを一口食べる。動物性食材を一切使っていないのに、ジューシーで肉のような弾力と食感。肉汁こそないものの、まるでお肉を食べているような感じで夢中で食べ進めていたらあっという間になくなった。「植物性でもおいしい味を提供したくて」と幸さんのさりげない一言に思いが表れていました。
出典:さんいんキラリ 秋号 No.50
小川のせせらぎや野鳥たちの囀り、椿や楓の木漏れ日のなか、思いきり深呼吸をしたくなる。絵本に登場してきそうな森にある小さな一軒家。古材の風合いが心地よい空間で、本を持ち込んでひとりランチを愉しみたい。