パンを焼き、森と人をつなぐ。

もりのひと 関口 健二さん

 

鳥取県八頭郡八頭町、JR因美線・東郡家駅の程近く。国道沿いの踏切を渡ったその先に、緑の中でお店を構えるパン屋さんがあります。生き生きとした草木に囲まれたこちらのお店の名前は『もりのひと』。国産の小麦や鳥取県産の素材、そして柿やリンゴから採取した自家製天然酵母を使ってパンを焼いておられます。今回はこちらでパン職人をされている、関口 健二(せきぐち けんじ)さんにお話を伺いました。

 

▲明るい笑顔で出迎えてくださった関口さん。ご出身は群馬県。

野外活動から生まれた「食」への思い

関口さんが鳥取でパン屋を始めたのは10年ほど前。
それ以前は東京や北海道で、子供たちと野外活動を行うNPO法人で勤めていらっしゃいました。キャンプをしたり、土地を開拓して遊び場を作ったり、小麦や野菜を育てたり…。子供たちに色々な体験をして欲しい、そんな思いで精力的に野外活動に関わるお仕事をされていたそうです。

そして野外活動を通じ関口さんは、農業学習の体験プログラムのひとつであった「パン作り」に出会いました。自分たちで作った季節の作物を使ってご飯を作る、そういう体験をさらに掘り下げて、ご自身でもパンを作ってみたいと思ったのだとか。

▲『もりのひと』では楽しいパン作りはもちろん、季節の食材やイベントを大事にした体験も盛りだくさん。パンを通じて色んな経験をしてほしい…そんな思いが詰まった体験教室です。

「1日3回、キャンプでご飯を作る、食べる、片付ける…というのは結構時間がかかるし、子供たちと話す時間も多くありました。でも意外と野菜の旬を知らない子もいたりして…これまでずっとやってきたことだから、食べるもの全般的なことを伝えていけたらいいなって」

パン作りの道に進むことを決心し、神戸で8ヶ月修行を行った後、奥様の地元である鳥取へ移住。天然酵母を使った『もりのひと』でのパン作りが始まりました。

▲『もりのひと』の基本となるパンの材料は国産小麦と水、沖縄の塩と有機グラニュー糖、そして自家製天然酵母の5つのみ。説明できないものは入れない、シンプルでやさしいパンを焼かれています。(画像:もりのひとInstagram より)

パンから森へ。

また、関口さんはパン作りとNPOスタッフ時代にやってきたことを結びつけていたいとおっしゃいます。「森と人をつなげたい」という思いで屋号は『もりのひと』に。木に触れ合ってほしいから、店内もできるだけ木を使用し、お子様用に置かれてあるおもちゃも木製ばかり。

「まずはお店で木に触れ合ってもらう。その次はお店の向かいに小高い丘があるので、少し踏み込んでそこで遊んでもらえたらな。パンがあればお客さんはとりあえず来てくれます。まずは来てもらって、山で遊びたいけどやり方がわからない人、興味があまりない人にとってのきっかけになれれば」

パン屋さんを入口として、色々な体験を子供にも大人にもひっくるめて提供していくことが関口さんの目標です。

▲木がふんだんに使われた優しい雰囲気の店内。もし傷やシミができても「その変化が面白い」とのこと。

▲店内の窓からも見える、小高い遊び場の丘。丘の上では焚き火体験などができるそうです。

昨今では子供でも大人でも、自然の中で遊んだことがないという方もいらっしゃいます。身近に外遊びができる環境や習慣がある人は、田舎であっても意外と少ないのかもしれません。そんな中でも『もりのひと』では丘の上に遊び場があったり、お店の周りに色々なハーブが植えてあったり、さらには山菜が採れる場所もあったりと、気軽に自然と触れ合える仕掛けが散りばめられています。

『もりのひと』はパン屋さんであるだけでなく、自然の恵みや季節の移ろいを感じ、森と繋がれる場所なのです。

▲お店で使われる食器は益子焼や木製品がメイン。土や木から作られた物が多く、自然との繋がりを随所に感じられます。

失敗しても大丈夫。まずは体験してみよう。

関口さんがパン作り教室や外遊びといった〈体験する〉ことに比重を置いているのは、「失敗してもいいからとにかくやってみること」の大切さを知ってほしいから。

「今は情報がたくさんあって〈知る〉ことは簡単。だから次の段階に進んでみて欲しいです。とりあえずやってみて、成功するのか失敗するのか、何が良かったのか、なんで失敗したのか、次はどうするのか。〈体験する〉ことで、次にどうしていくかをぐるぐる考えて繰り返していけたらいいな。パン作りだけじゃない。生きていく上で成功した事例があれば、このやり方でもう1回やってみようって思えるから。ひとつ躓いたってなんとかなるはず」

そうおっしゃる関口さんの言葉からは、若い世代に対する前向きな気持ちと、深い愛情を感じました。

▲天然酵母のパンはその日の気温や天気にも左右されるため、予定通りに焼き上がらないこともしばしば。しかし発酵の状態によって焼く順番を変えたり、待ち時間で薪割りをしたり、パンに合わせて毎日違う動きができることが楽しくもあるそうです。

関口さんご自身の今後やってみたいことは、更なる遊び場の開拓。羊を飼ったり、秘密基地を作ったり…聞いているだけでワクワクするような計画をお聞かせくださりました。

やさしい美味しさのパンを食べたいとき、自然と触れ合いたくなったとき、何かにちょっとチャレンジしてみたいとき、色んな気持ちを後押ししてくれる『もりのひと』に訪れてみてはいかがでしょうか。

#鳥取 #手作り #作る人

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もりのひと 関口 健二さん

住所:鳥取県八頭郡八頭町門尾148-2

ライターのコメント

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ライター

中前朱理

グラフィックデザイナーとして仕事をしながら、とりのひと編集室のメンバーとして取材に行ったり、記事を書いたりしています。鳥取の素敵な人やモノについて、少しでも知ってもらえるきっかけになれれば嬉しいです♪